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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)4439号 判決

原告 日本通運株式会社

被告 武藤医器薬品工業有限会社

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金四十八万八千二百六十九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日より右完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、原告は運送業を営む会社であり、被告は試薬品化学薬品の卸小売を業とする会社であるところ昭和二十四年八月四日、原告会社秋葉原支店へ、被告から鹿児島市鴨池町県立医学専門学校宛医療用薬品箱入一個二十七瓩を鉄道便小口混載扱として運送方の依頼を受け、原告はこれを承諾し同年八月八日貸切貨車一車に所謂小口混載として他の貨物と共に右貨物を積込み国有鉄道に引渡し、鉄道は同日午後六時二十分第四八二号列車に連結し田端駅において、第六八二号列車に切換え、翌九日午前〇時五十六分頃新鶴見操車場に到着し同操車場において各貨車の行先方面別に組成換終了後午前三時四十五分頃同操車場駅警備員が右貨車内より白煙の噴き出ているのを発見し直ちに消火に努めたが、同貨車内の大部分の貨物を焼失するに至つた。而して被告より委託にかゝる前記薬品箱中には発煙硝酸、発煙硫酸、石油ベンヂン、ベンゾール、メタ燐酸等の危険品が含まれていたのであり、かゝる危険品の運送を委託するに当つては鉄道省の運送法令、規則慣習等に則り他の一般貨物と異りその包装につき硝子罎に入れ共栓を施し石膏封蝋等を以て厳封し、木箱又は木樽の容器に入れ、周囲及び底部には不燃性の緩衝物を填充する等厳重に包装し、自然発火を防止する様荷造の上内容が危険品であることを表示申告して運送方を依頼し相当増運賃を支払うべきであり、被告は右の事実を熟知しながら、硝子壜に入れた外は敢えて右の処置を講ぜず却つて最も燃焼し易い藁を用いて、他の普通貨物との接触面に緩衝物となし、危険品を含む薬品を不完全な包装荷造を以て一般医療用薬品として発送したため輸送中の動揺により包装荷造が破損し、前記各危険品が洩出し、自然発火し、前記の如き出火を惹起したものであるから、被告は重過失ある不法行為の責を免れず、従つてこれにより原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。而して原告は運送取扱人としての責任上前記火災により焼失した貨物の各荷主に対し、損害賠償として、別紙<省略>記載の如く合計金四十八万八千二百六十九円を支払い、これと同額の損害を蒙つたのであるから、原告は被告に対し右金額及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

仮りに前記日時に被告より委託を受けた薬品がフオルマリンであつて前記薬品ではなく、前記出火が被告発送の前記薬品に原因するものでないとするならば、原告が右出火原因を調査するも出火原因が不明であり、原告は運送取扱人としての責任につき、その過失がなかつたことを容易に立証しその責を免れ得たのである。然るに原告の出火原因調査に当り被告は故意又は過失により原告に対し口頭を以て或は見積書及びこれに記載された薬品と同一品の見本を提出することにより、前記原告主張のとおり被告が危険品を含む前記薬品を発送したことを認めて原告の出火原因についての判断を誤らしめ原告をして前記損害賠償金を支払うに至らしめ因つて原告に前示の如き損害を蒙らしめたのであるから、原告は被告に対し損害賠償として前記金額の支払を求めると述べ、被告の後記自白の取消については異議がある。尚右自白の取消及び原告が其の主張の日時に被告より委託を受けた薬品はフオルマリンであつて前記薬品ではないとの被告の後記主張は被告の故意又は重大なる過失により時機に遅れて提出されたものであつて、しかも、これがため訴訟の完結を遅延せしめるものであるから却下を求めると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原、被告両名が原告主張の如き会社であることは認める。被告が、昭和二十四年八月四日原告会社秋葉原支店に対し原告主張の学校宛その主張の如き危険品を含む医療用薬品箱入一個二十七瓩をその主張の如き包装荷造を以て鉄道便小口混載扱として運送を依頼したこと及原告の予備的主張事実は否認する。その余の原告主張事実はすべて不知と答え、被告は昭和二十五年九月二十六日の本件口頭弁論期日において被告が原告主張の日時に訴外大原回漕店(東洋梱包運輸株式会社)を通じて、医療用薬品箱入一個二十七瓲を鹿児島医学専門学校宛鉄道便小口混載扱による運送方を原告会社秋葉原支店に依頼したこと、右運送品中には原告主張の如き危険品である薬品が含まれていたことを認めたが右自白は真実に反し且つ錯誤に基つきなされたものであるからこれを取消す。被告は、昭和二十四年八月三日、訴外大原回漕店を通じて医療用薬品箱入一個二十七瓩の鹿児島医学専門学校宛鉄道便小口混載扱による運送方を原告会社秋葉原支店に依頼したことがあるが、その内容はフオルマリン五百瓦入二十本である。被告が同回漕店を通じ原告会社同支店に対し同学校宛原告主張の如き危険品を含む薬品の鉄道便による運送方を委託したのは昭和二十四年八月二十日であつて、該薬品は同年九月中に右学校に到着しているのであると述べた。<立証省略>

三、理  由

証人山口重一、同田淵正吉、同横堀啓六の各証言を綜合すると、昭和二十四年八月九日午前三時四十五分頃被告会社発送の貨物をその他の貨物と共に積載した秋葉原駅発鹿児島駅行原告小口混載貸切貨車が、新鶴見操車場において内部より発火し、その積荷の一部を焼失しことが認められる。而して、被告は昭和二十五年九月二十六日の本件口頭弁論期日において、被告が、昭和二十四年八月四日訴外大原回漕店(東洋梱包運輸株式会社)を通じて、原告会社秋葉原支店に鹿児島医学専門学校宛医療用薬品箱入一個二十七瓩の運送方を依頼したこと、右運送品中には原告主張の如き危険品である薬品が含まれていたことを認め、その後昭和二十七年十一月十九日の本件口頭弁論期日において、右自白は真実に反し、且つ錯誤に出でたことを理由として、これを取消し前記日時に原告が被告より委託を受けた薬品はフオルマリンであつて前記薬品ではない旨主張したところ原告は右自白の取消及び被告の主張は、被告の故意又は重大なる過失により時機に遅れて提出された攻撃防禦方法であると主張するから先づこの点につき考えるに、被告訴訟代理人提出の昭和二十七年七月三十日附準備書面によると、被告が前記自白を取消し前記主張をなすに至つたのは昭和二十七年七月二十日頃被告自ら鹿児島医学専門学校に調査に赴いた結果であるというのであるが、被告会社代表者武藤国太郎本人の供述によると、被告会社代表者は、本件第二回(昭和二十五年十一月二十八日であること、本件記録上明らかである)口頭弁論当時において、被告訴訟代理人に対し、昭和二十四年八月二日鹿児島医学専門学校宛送付した品物は原告主張の品物と相違するらしいと告げたというのであるから、その当時遅滞なく調査に着手したならば、かくまで遅延を来すことはなかつたと思われる。被告会社代表者は遅延の理由として、同人が昭和二十三年以来、血液染色試薬の研究に没頭し店務を同人の弟及店員等に一任していたこと、被告方店員が不正行為をなしその犯跡煙滅のため、店の注文書見積書請求書等書類の一部を破毀したこと、鹿児島医学専門学校に対し、手紙で照会しているうち、同学校の事務所及び病院が火災により焼失したこと、昭和二十六年三月頃弟を調査に赴かせたところ、同人は任務を果さず行衛不明になつたこと等の事情を供述するけれども、これ等の事情をすべて考慮に入れても、昭和二十五年十一月二十八日より、昭和二十七年七月二十日に至る一年八ケ月の遷延につき、被告は重大な過失の責を免れないと考えられる。従つて本件記録により明らかな通り、前記準備書面に基き、昭和二十七年十一月十九日の本件第十四回口頭弁論期日に及んでなされた前記自白の取消及び前記主張は、被告本人の重大な過失に基き時機におくれた防禦方法と認めるのが相当である。

しかしながら、本件記録上明らかな通り、被告訴訟代理人は右準備書面に基き陳述すると同時に、その立証として、乙第二乃至六号証を提出し、原告訴訟代理人は直ちにその認否をなしたのであるから、被告の右防禦方法の提出によつて訴訟の完結を遅延せしめるものというを得ない。よつて被告の右防禦方法の提出はこれを認容すべきである。

そこで進んで、被告の右自白の取消が真実に反し錯誤に出でたものであるか否かにつき考えるに、被告会社代表者武藤国太郎の供述により真正に成立したと認められる乙第二号証、第三号証、成立に争いなき乙第四号証によるも、被告会社が昭和二十四年八月二十日大原回漕店(東洋梱包運輸株式会社)を通じ鹿児島医学専門学校宛原告主張の如き、危険品を含む薬品函入一個二十七瓩の運送方を原告会社に依頼したことが認められるに止まり、昭和二十四年八月三、四日頃同訴外店を通じ原告会社秋葉原支店に同学校宛運送方を依頼した医療用薬品函入一個二十七瓩の内容が原告主張の如き危険品を含む薬品ではなくフオルマリンであつた事実については、この点に関する原告会社代表者の供述及び乙第五号証の記載は証人門喜一郎の証言成立に争いのない甲第九、十、第十二号証に照らしたやすく採用し難く、その他これを確認すべき証拠がないから被告の自白が真実に非らず錯誤に出でたことの立証なきに帰着し、結局昭和二十四年八月四日委託にかゝる運送品中に原告主張の如き危険品である薬品が含まれていたことを認めた被告の自白の取消はこれを許容し得ないものといわねばならない。

そして被告の前記自白に成立に争いなき甲第二号証証人滝口東平の証言により真正に成立したと認められる甲第一号証の一、二、第六乃至八号証証人山口重一の証言により真正に成立したと認められる甲第三、四、五号証証人滝口東平、門喜一郎、山口重一、田淵正吉の各証言を綜合すると、右危険品の運送を委託するに当つては小口運送業者営業規則第二条貨物運送規則同補則第一条第十三条に従い、他の一般貨物と異り、その包装につき硝子罎に入れ共栓を施し石膏封蝋等を以て厳封し、木箱又は木樽に入れ容器の周囲及び底部には不燃焼性緩衝物を填充する等、特に厳重なる包装荷造を施した上、内容が危険品であることを表示申告して運送方を依頼すべきにかゝわらず被告は前記危険品である薬品を硝子罎に入れ共栓を施し封蝋を以て封をなしたけれども、大原回漕店に対し、託送の薬品中に危険品の含まれていることを告げず、単に普通の医療用薬品として荷造並びに運送方を依頼したため、同店は右危険品入りの硝子罎をその儘藁に包み縛り、他の普通品と共に一個の木箱に入れ、容器の周囲及び底部に不燃焼性緩衝物を填充する処置を講せず、却つて緩衝物として燃焼し易い藁を詰めた上、危険品であることを表示申告することなく、普通の医療用薬品として、原告会社秋葉原支店に鉄道便小口混載扱による運送方を依頼して発送したため、秋葉原駅において普通の貨物として他の貨物と共に原告小口混載貸切貨車に積み込まれた右薬品入貨物が同駅より新鶴見操車場に至る輸送中の動揺により、薬品中危険品である発煙硝酸又は発煙硫酸が容器破損又は密栓不十分のため洩出し周囲の藁に接触し自然発火し、ベンゾール、石油ベンヂン等に引火して、前記の如き出火を惹起したことが認められる。

被告は化学薬品の販売を業とする者であるから前記薬品の危険なる性状はもとより熟知していたものと推察されるから、被告が大原回漕店に対し、荷造並に運送方を依頼するに当つて危険品の含まれていることを告知しなければ、同店において危険品に相応する荷造を施さず、危険品であることの表示申告をなさず、ひいて自然発火に至る虞あることは、被告において相当な注意を怠らないときは当然予期すべきところであると認められるから、本件事故は、その危険品の含まれあることを告げず普通の医療用薬品として荷造並びに運送方を委託した被告の過失に基づくものであること明かであつて、被告は不法行為の責あるものとして、これにより生じた損害を賠償すべき義務を免れない。

そして前記貨車に混載された結果焼失した荷物の荷主に対し、原告会社秋葉原支店が合計金四十八万八千二百六十九円の損害賠償金を支払つたことは、証人山口重一の証言に依り認められるところ、運送取扱人は、自己又は其使用人が運送品の受取、引渡、保管、運送人又は他の運送取扱人の選択其他運送に関する注意を怠らなかつたことを証明しなければ運送品の滅失毀損又は延着につき損害賠償の責を免れることができないことは勿論であるが、前記甲第一号証の一、二、第五号証、証人山口重一の証言によると、原告は、本件事故発生の直後、国鉄公安官と協力の上事故の原因を調査し、外部からの火気によるものではなく貨車内部の貨物より発火したものと推測し、各荷主に内容明細書仕切書の提出を求め、被告より提出された見積書により被告が大原回漕店を通じ危険品とすべき薬品を普通医療用薬品として送付方を依頼したことを知り、鉄道技術研究所に鑑定を依頼した結果、右薬品が自然発火の虞ある旨の報告を受けて居り、原告は右損害賠償金を支払う前既に本件事故が、大原回漕店又は被告の故意又は過失に基因するもので、自己又はその使用人の故意過失に基因するものではないことを知り且つ前記注意を怠らなかつたことの証明をなすことも容易であつたと認められるから、原告の前記損害賠償金の支払を以て、運送取扱人としての責任上当然であるということはできない。従つて被告の前記不法行為に因り原告が右金額の損害を蒙つたということはできない。

以上の理由により、被告の前記不法行為に因り原告が損害を蒙つたことを前提とする原告の本訴請求は失当である。

次に原告の予備的請求は、原告が昭和二十四年八月四日被告より運送の委託を受けた薬品がフオルマリンであつて前記薬品でなく前記出火が被告発送の前記薬品に原因するものでないことを前提とするところ、前記日時原告が被告より運送の委託を受けた薬品はフオルマリンではなく、前記薬品であること前記のとおりであるから、原告の予備的請求については判断の必要がない。

よつて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福島逸雄)

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